概要
この記事では、「計量ベクトル空間に非退化内積が入っているとき、計量テンソルの行列は逆行列をもつ」という主張を証明する。 それを以下の3ステップで行う。- 基底について証明すればよい
- 内積が非退化ならば計量テンソルの行列式はゼロでない
- 計量ベクトル空間に非退化内積が入っているとき、計量テンソルの行列は逆行列をもつ
1. 基底について証明すればよい
「任意のベクトルについて・・・」と「基底について・・・」が同値であるという、線形代数でよく使われる考え方を証明する。まずは、非退化内積の定義を思い出す。
R 上のベクトル空間 V において、<・|・> : V×V → R の関数が
x, y, z ∈ V で a ∈ R のとき
1. 双線形性
- <ax + y | z> = a <x | z> + <y | z>
- <x | ay + z> = a <x | y> + <x | z>
- <x | y> = <y | x>
3. 非退化性
- ∀x [ <x | z> = 0 ] ⇒ z = 0
をみたす場合、非退化内積という。
この非退化性について次の主張を証明したい。
「任意にVの基底{e1, … , en}をとった場合、
∀x [ <x | z> = 0 ]
と
∀i [ <ei | z> = 0 ]
同値である。」
(証明)
任意に基底{e1, … , en}をとる。 どんなベクトルx (∈ V) も、
x = x1e1 + ... + xnen
と表せる。
∀x [ <x | z> = 0 ] を仮定すると、
となり、xiは任意の実数なので、
<ei|z> = 0
が成り立つ。
逆も容易にいえる(基底の定義を使えばよい)。
2. 内積が非退化ならば計量テンソルの行列式はゼロでない
が成り立つことをいうのだが、上で考えたことから
を証明すればよい(記号→と⇒は「ならば」を表す)。
そして直接これを示すのではなく、対偶の
を示す(記号∧は「かつ」を表す)。
(証明)
を仮定する。これは、
において、x1 = x2 = … = xn = 0 でない x1 , x2 , … , xn が存在することと同値(この記事では、丸括弧()を行列を表す記号として、角括弧[]を全称記号∀や存在記号∃の適用範囲を表すものとして用いている)。
さらに言い換えると、
ここで
とおくと
となるzが存在することと同じ。
これは証明したかった結論
を意味する。(証明終わり)
(逆の証明の概略)
上記の証明は同値変形をしているので、逆も成り立つ。
直接証明したい場合は
と
を仮定して、z = 0 を導けばよい。このとき
とおくのがポイント。(逆の証明の概略終わり)
よく gij = < ei | ej > と表記され、計量テンソルの行列式を
のように表す。そのような文脈では
が使われるが、この式の分母が零にならないことが内積の非退化性から保証されることになる。
3.計量ベクトル空間に非退化内積が入っているとき、計量テンソルの行列は逆行列をもつ
計量テンソルの行列式が、をみたすことと、計量テンソルの行列が逆行列をもつことは同値である。
よって、「計量ベクトル空間に非退化内積が入っているとき、計量テンソルの行列は逆行列をもつ」 ことがいえた。
よく計量テンソル gij の逆行列 gij が定義されるが、ベクトル空間に非退化内積を入れれば gij の存在が保証されることが分かる。