2019年8月15日木曜日

基底のホッジ双対

 基底に対してホッジスター作用素を作用させると、どのような値になるのであろうか?今回の記事では、それを正規直交基底に限らず一般の基底に対して計算してみる。

1. エディントンのイプシロン

エディントンのイプシロンは


と定義される。ここでi1,…,in∈{1,…,n}である。evenは(i1,…,in)が(1,…,n)の偶置換である場合、oddは(i1,…,in)が(1,…,n)の奇置換である場合、otherwiseはそれ以外の場合を表す。

計量テンソルをgijと、その行列式をgとすると、


が行列式の定義である。よって


も成り立つ。さらにこれを変形した


も使うことがある。

ちなみに、相対性理論でエディントンのイプシロンが出てくる場合は、符号が異なっている。これについては


のようにする。このときの左辺の記号が相対性理論におけるエディントンのイプシロンに相当する。




2. ホッジ双対の定義と計算の概略

 内積が定義されたn次元ベクトル空間をVとし、λ∈∧pVに対してそのホッジ双対*λを、以下の式が任意のμ∈∧n-pVで成り立つような∧n-pVの元として定義する。


ただし

とし、∧n-pVに定義された内積を<|>n-pと表記している。考えやすさのために、最初は1≦i1<…<ip≦n, 1≦j1<…<jn-p≦nとするが、この制限は必要ないことを最後に考察する。

 まず*λを計算する前に、

をみたすfλ∈∧n-pV*を計算をする。それから


となる*λを求める。

 以下の計算は複雑に見えるかもしれないが、やっていることは、この記事の計算と同じである。もし複雑に感じたらn=3でp=1などとして、書いてみるとよい。




3. 基底のホッジ双対の計算

早速 λ = ei1 ∧ … ∧ eip に対し fλ ∈ ∧n-p Vを求めよう。

まず λ∧μ ≠ 0 の場合を計算する。このときは μ ∈ ∧n-p V*


なので


となる。また、 fλ ∈ ∧n-p V*



とおくと、


である。ここで・記号は n-pV* を n-pV に作用させることを意味し


となることを使った。この値が-1にならないのは、1≦j1<…<jn-p≦nかつ1≦k1<…<kn-p≦nとしたためである。

式(1)と式(2)を

にあてはめると、今{i1,…,ip}∩{j1,…,jn-p}=∅ の条件下で考えているので


を得る。

次に λ∧μ = 0 の場合を計算する。 μ ∈ ∧n-p V* であり、


なので、これ同様に計算すると、同様に式(2)が成り立つ。λ∧μ = 0 と式(2)を


にあてはめると


を得る。

式(3)と式(4)より


となる。

最後に

を使って*λを求めるときは、fλej1をΣgj1l1el1のように置き換えればよいので、


となる。ここまでで、基底のホッジ双対を求めることができた。

 以上の議論において、1≦i1<…<ip≦n という条件は使われていないことが分かる。つまり上記の結果は、この制限なしで一般に成り立つことが分かる。さらに 1≦j1<…<jn-p≦n と、fλの 1≦k1<…<kn-p≦n も必要ない。ただし、この場合、基底と双対基底について同様の決め事は必要である。例えばn=3でp=1を考える。1≦j1<j2≦3 , 1≦k1<k2≦3 とするのであれば、双対基底はe1e2, e1e3, e2e3となり、μはこれらの添え字を下げたものe1e2e1e3e2e3のいずれかとするが、もし1≦j1<j2≦3 , 1≦k1<k2≦3 としないとしても、双対基底をe1e2, e2e3, e3e1のように決め、μの値もこの中の添え字を下げたものから選ぶ必要がある。そのようにすれば1≦j1<…<jn-p≦n と  1≦k1<…<kn-p≦n という条件もなしで上記の議論は成り立つ。

 上記のfλと*λの式は、次のような形で表記する場合もある。いくつか挙げておくが、計算することで相互に変換することが可能である。






4. 双対基底の場合

  双対基底のホッジ双対はどんな式で表されるのだろうか。次はこの点を考察する。
内積が定義されたn次元ベクトル空間をV、その双対空間をV*とする。λ∈∧pV*に対してそのホッジ双対*λを、以下の式が任意のμ∈∧n-pV*で成り立つような∧n-pV*の元として定義する。


ただし


とする。


λ = ej1 ∧ … ∧ ejn-p に対し fλ ∈ ∧V を求めると


となる。また、*λは


のようになる。




5. 具体的な例

基底{e1, e2, e3}は


をみたす正規直交基底であるとし、基底{e'1, e'2, e'3}との間に


の関係が、逆に書けば


の関係が成り立っているものとする。

このとき、基底{e'1e'2e'3}に関する計量テンソルの行列表現と逆行列、そして計量テンソルの行列式は




である。

双対ベクトルφに対応するベクトルvを



で表すとすると、双対基底には


のようにベクトルが対応する。

そのため、基底のホッジ双対を次のように計算できる。
n=3,p=3とすると、


さらに、i1=1, i2=2, i3=3とすると


となり、これは e'1e'2e'3 で成る平行六面体の体積になっている。

また、n=3,p=2とすると、


ここで、i1=1, i2=2とすると、j1=3となり


のように計算できる。これは


のように計算できるので、方向は e3 方向、大きさは e'1 と e'2 がつくる平行四辺形の面積になっている。

2018年6月24日日曜日

ホッジスター作用素の二つの定義とその関係

前回の記事では、nベクトルの特別な要素σ~とσに着目して内積やホッジ双対を考察した。
今回の記事では、ホッジスター作用素の定義は二種類あるが、互いにsgn(g)倍の違いしかないことを見る。本によって定義が異なっていても相互の関連性が分かると、それらを読みやすくなる。

sgn(g)、σ~、σなどの記号の意味は前回と同じとする。

ホッジスター作用素の2つの定義

定義1
ベクトル空間∧pVから∧n-pVへの作用であるホッジスター作用素1を次の式で定義し、記号*で表す。

ただし*λは、与えられたλ∈∧pVに対して、すべてのμ∈∧n-pVでこの式を成り立たせる∧n-pVの要素である。

定義2
ベクトル空間∧pVから∧n-pVへの作用であるホッジスター作用素2を次の式で定義し、記号★で表す。

ただし★λは、与えられたλ∈∧pVに対して、すべてのμ∈∧n-pVでこの式を成り立たせる∧n-pVの要素である。

ちなみに上記の定義1と定義2でλ∈∧pV*としたならμ∈∧n-pV*であり、そのときはσ~∈∧nVでなくσ∈∧nV*を使う。

2つの定義の関係

以下で*と★が
をみたすことを示す。(定義1と定義2でσ~は同じ値とする)
その際、証明なしで
を使う。


(証明)
定義2より


ここでτ=★λとおいて、定義1を使うと右辺は


よって

である。これが任意のμについて成り立つので、内積の対称性と非退化性より


である。
両辺に*を作用させると左辺は*λで、右辺は*の線形性と上記の**の作用結果より


である。

以上より

すなわち
である。(証明終わり)

ここから分かることは、計量テンソルの行列表現[gij]の行列式が正のとき(特に正定値内積のとき)は*も★も同じ作用になるということである。
そして、計量テンソルの行列表現[gij]の行列式が負のときでも、sgn(g)倍すれば他方の定義の場合にすぐ変換できる。

具体例1

計量テンソルが

となるように二次元ベクトル空間に内積を入れる。sgn(g)=-1なので


となり、*の作用は

のようになり、★の作用は

のようになる。
このように、sgn(g)<0のときは*と★の作用結果はsgn(g)だけ異なる。

具体例2

前回の記事より
なので上記の関係性より

σについても同様に
が成り立つ。

具体例3

前回の記事より
なので、やはり上記の関係を使うことで

同様にσについて
が成り立つ。