2018年6月24日日曜日

ホッジスター作用素の二つの定義とその関係

前回の記事では、nベクトルの特別な要素σ~とσに着目して内積やホッジ双対を考察した。
今回の記事では、ホッジスター作用素の定義は二種類あるが、互いにsgn(g)倍の違いしかないことを見る。本によって定義が異なっていても相互の関連性が分かると、それらを読みやすくなる。

sgn(g)、σ~、σなどの記号の意味は前回と同じとする。

ホッジスター作用素の2つの定義

定義1
ベクトル空間∧pVから∧n-pVへの作用であるホッジスター作用素1を次の式で定義し、記号*で表す。

ただし*λは、与えられたλ∈∧pVに対して、すべてのμ∈∧n-pVでこの式を成り立たせる∧n-pVの要素である。

定義2
ベクトル空間∧pVから∧n-pVへの作用であるホッジスター作用素2を次の式で定義し、記号★で表す。

ただし★λは、与えられたλ∈∧pVに対して、すべてのμ∈∧n-pVでこの式を成り立たせる∧n-pVの要素である。

ちなみに上記の定義1と定義2でλ∈∧pV*としたならμ∈∧n-pV*であり、そのときはσ~∈∧nVでなくσ∈∧nV*を使う。

2つの定義の関係

以下で*と★が
をみたすことを示す。(定義1と定義2でσ~は同じ値とする)
その際、証明なしで
を使う。


(証明)
定義2より


ここでτ=★λとおいて、定義1を使うと右辺は


よって

である。これが任意のμについて成り立つので、内積の対称性と非退化性より


である。
両辺に*を作用させると左辺は*λで、右辺は*の線形性と上記の**の作用結果より


である。

以上より

すなわち
である。(証明終わり)

ここから分かることは、計量テンソルの行列表現[gij]の行列式が正のとき(特に正定値内積のとき)は*も★も同じ作用になるということである。
そして、計量テンソルの行列表現[gij]の行列式が負のときでも、sgn(g)倍すれば他方の定義の場合にすぐ変換できる。

具体例1

計量テンソルが

となるように二次元ベクトル空間に内積を入れる。sgn(g)=-1なので


となり、*の作用は

のようになり、★の作用は

のようになる。
このように、sgn(g)<0のときは*と★の作用結果はsgn(g)だけ異なる。

具体例2

前回の記事より
なので上記の関係性より

σについても同様に
が成り立つ。

具体例3

前回の記事より
なので、やはり上記の関係を使うことで

同様にσについて
が成り立つ。

2018年4月21日土曜日

特別なnベクトル

前回、非退化内積が定義されているn次元ベクトル空間Vでの、VからV*への同型写像を考えた。また∧pVから∧pV*への同型も考察した。

まずは、この記事での表記について。
・gは計量テンソルの行列表現[gij]の行列式を表す。
・|x|は実数xの絶対値を表す。
・sgn(x)は定義域が実数全体で
x > 0 なら sgn(x) = 1
x = 0 なら sgn(x) = 0
x < 0 なら sgn(x) = -1
の実数値関数を表す。
・n次元ベクトル空間Vの基底を
で表す(正規直交基底とは限らない)。
・Vの双対空間をV*の基底を
で表し、Vの基底との間に
が成り立つとする(δijはクロネッカーのデルタ)。


今回はnベクトルの要素である、∧nVの元

と、∧nV*の元

が主役である。
σ~の符号として+を選んだ場合は、σの符号も+を選ばなければならず、
σ~の符号として-を選んだ場合は、σの符号も-を選ばなければならない。
以下、この記事での±は上記で自分が選んだ符号に従って読んでいただきたい。

前回の記事(「ちなみに上記のことを特にp = nで考えると、」の部分)により、
内積を使って定義した∧nVから∧nV*への同型写像をfとすると


である。g = sgn(g) |g| であることと、fが線形であることに注意すると、


である。

また、前回の記事と同じ記号で上記fの逆写像をhとすると


である。よってhが線形なので


このようにσとσ~は同型写像fとhにより同一視できることがわかる。ただこの記事では同一視はしない。
さて、このσとσ~は非常に良い性質をもっている。以下でそれを述べる。

内積

σ~の内積は

σの内積は


ホッジ双対

ベクトル空間∧pVから∧n-pVへの作用であるホッジスター作用素*を次の式で定義する。


ただし*λは、与えられたλ∈∧pVに対して、すべてのμ∈∧n-pVでこの式を成り立たせる∧n-pVの要素である。

ここでσ~は最初に定義したのと同じで、
とする。
また、ホッジスター作用素*を作用させた*λを、λのホッジ双対という。


 また、双対空間についても同様にして、ベクトル空間∧pV*からベクトル空間∧n-pV*へのホッジスター作用素*を、

で定義する。やはり*φは、与えられたφ∈∧pV*に対して、すべてのψ∈∧n-pV*で式を成り立たせる∧n-pV*の要素である。ここでσは
である。
上記同様、ホッジスター作用素*を作用させた*φを、φのホッジ双対という。


さて、σやσ~のホッジ双対はどうなるのか計算してみる。
λ=σ~ ∈∧nVでμ=1 ∈∧0V=Rとし、*λ=a ∈Rとおく。
と計算できるので、a=1つまり

同様にして
と計算できる。
ここで重要なことが2つある。
一つ目は、*σ~=1と*σ=1には±や̠∓のような複合が現れていないということである。
これは、σ~とσの定義で+を選ぼうが-を選ぼうがホッジ双対が1になることを意味している。
二つ目は、ホッジスター作用素の定義には別の定義があり、それを採用すると右辺がsgn(g)倍になるということである。詳しくは次の記事で論じる。


ついでに1のホッジ双対も計算してみる。
λ=1 ∈∧0V=Rでμ=σ~ ∈∧nVとし、*λ=aσ~ ∈∧nVとおく。


なので、a = sgn(g)となり、
である。1は∧0V*(=R)の要素のため、同様の計算により
が分かる。
この結果もσ~とσの定義のときに+や-のどちらを選ぶかに依存していない。
また、ホッジスター作用素の別の定義を採用すると右辺のsgn(g)が無くなる。

次回はσ~を使いホッジスター作用素の二つの定義の関係を考察する。