2017年8月13日日曜日

内積空間のベクトルと双対ベクトル

この記事では、内積が定義されているベクトル空間Vの元と双対空間V*の元が対応することを述べる。その流れで、テンソル計算における添字の上げ下げの意味付けを行う。
そして、同様のことをpベクトルとその双対pベクトルに対しても行う。

1. ベクトルと双対ベクトルの対応について

ベクトル空間 V (ただし dimV = n) とその双対空間 V* を考える。 V に非退化内積< | >が定義されているとする。このとき、この内積により V と V* の間に定義される同型写像fを考える。すなわち次の式が任意の x ∊ V に対して成り立つように、ベクトル v ∊ V に対して双対ベクトル φ ∊ V* を定める。


このとき φ = f(v) となるfは線形である。
V の基底が {e1,...,en} のとき、 ei (i = 1, ... , n) に対して式(1)で定まるφを求めたい。
その前に例えば、v = e1 ∈ V に対してのφを求めてみる。


とおくと(1)を x=e1, ... , x=en について計算することにより、

...

よって
となり、

同様にして、ei (i = 1, ... , n) に対しては

が成り立つ。よって任意の

に対して

これは v に対応するφを求めたいときは、 = Σvieiei を Σgijej に置き換えればよいことを示している。
ちなみにφの成分に関しては、φ = Σφjej と上の式を見比べることで


であることが分かる。

 次に逆の対応を考察する。次の式が任意の ψ ∊ V* に対して成り立つように、双対ベクトル φ ∊ V* に対してベクトル v ∊ V を定める。


このとき v = h(φ) となるhは線形である。
上記と同様にして

が成り立ち、任意のφ = Σφjejに対して


となる。ここからもやはりφに対応するvを求めたいときは、φ = Σφjej の ej を Σgjiei に置き換えることで簡単に求められる。
成分に関しても同様に

である。

 ゆえに h∘f = id (idは恒等写像)となり、 V の元と V* の元は一対一に対応する。
このfにより、Vの元であるベクトル(反変ベクトル)vとV*の元である双対ベクトル(共変ベクトル)φを同一視することがある。同一視しているときは、このブログではvの成分viを反変成分、φの成分φjをvjのように添字を下に表記して共変成分と呼んでいる。
このとき、上記の成分の変換則は



のように表記され、これを添え字の上げ下げという。

 さて、ここからは以上の流れをpベクトルに対して行っていくのだが、その前にpベクトルの双対性について述べる。


2. pベクトルにおける双対基底の定義

p=2,…,nについて ∧pV を考える。これは nCp次元のベクトル空間となる。
v1,...,vp ∊ V で φ1,...,φp ∊ V* のとき、
v1∧...∧vp ∊ ∧pV と φ1∧...∧φ1 ∊ ∧pV* の双対性を


で定義する。(記号・を ∧pV の ∧pV* への作用を表すために使っているので、注意が必要。ここの記号・は内積ではない。)

ベクトル空間Vの基底が {e1,...,en} のとき、その双対基底 {e1,...,en} は


で定義される。
これと上の定義を使うと、例えば dimV=3 において e1e2と e1e2の場合は、


と計算できる。また、e1e3e1e2


のように計算できる。
一般に dimV = n のpベクトルに対しては、 ei1∧...∧eipej1∧...∧ejpで計算すると、
集合{i1,...,ip}と集合{j1,...,jp}の要素数がp個で {i1,...,ip} = {j1,...,jp} なら

それ以外の場合は


となる。

 p = 0 の場合は、∧0V ≅ R であり、これは nC0 = 1 次元のベクトル空間となる。
v ∊ ∧0V ≅ R とφ ∊ ∧0V* ≅ R の双対性を


のように、実数の積で定義する。
任意のφ = a ∈ R (a≠0) に対してφ・v = 1となるvの値(aの逆数)が存在する。
またこの値が0になるのは、φとvの少なくとも一方が0のときである。


3. pベクトルのその双対ベクトルの対応

1≦p≦nとする。

 ∧pVには非退化内積<  |  >pが定義されているとする。
このとき、次の式が任意のx1∧...∧xp∊∧pVに対して成り立つように、pベクトルv1∧...∧vp ∊ ∧p Vに対して双対pベクトルφ ∊ ∧p V*を定める。


このときv1∧...∧vpに対してφを定めるこの写像をfで表すと、fは線形である。
p Vの基底は { ei1∧...∧eip | 1≦i1<...<ip≦n } である。 v1∧...∧vp = ei1∧...∧eipに対して式(4)で定まるφを求める。


とおく。
(この式における成分φ{j1, ... ,jp}の添字{j1, ... ,jp}は、要素数がp個の集合である。そして集合{1,...,n}の部分集合でもある。このように要素数がp個の集合{j1, ... ,jp}に対して、基底のベクトルej1∧...∧ejpが一対一で対応するため(例えば要素数がp個の集合{1,...,p}に対しては基底のベクトルe1∧...∧epを対応させる。)、φの成分φ{j1, ... ,jp}の添字に集合を用いている。)

そうすると(4)の左辺は


と計算できる。ちなみに、ここの式変形では最後にek1∧...∧ekpej1∧...∧ejpの双対性を用いた。

一方(4)の右辺は、v1∧...∧vp = ei1∧...∧eipの場合を考えているので


と計算できる。

よって、

となり v1∧...∧vp = ei1∧...∧eipに対するφは


となり


である。これは、対応するφを求めたいときは、ei1をΣgi1j1ej1に、...、eipをΣgipjpejpに置き換えればよいことを示している。

一般に任意の


に対して


がいえる。これも、vに対応するφを求めたいときは、ei1をΣgi1j1ej1に、...、eipをΣgipjpejpに置き換えればよいことを示している。

ちなみに成分については


である。


 上記の逆作用についても同様のことを行うことで、


であるhが


のように作用することを示せる。

 以上のことからh∘f = id(idは恒等写像)となり、∧p Vの元と∧p V*の元は一対一に対応する。


ちなみに上記のことを特にp = nで考えると、



となる。ここのgは計量テンソルの行列表現[gij]の行列式である。



4. p=0の場合

最後にp=0の場合を考察する。

 ∧0 V ≅ R にはここにあるような非退化内積 <  |  >0が定義されているとする。
このとき、次の式が任意の x ∊ ∧0 V ≅ R に対して成り立つように、pベクトル(p=0なので実数) v ∊ ∧0 V ≅ R に対して双対pベクトル(p=0なので実数) φ ∊ ∧0 V* ≅ R を定める。

(ここで記号・は実数φと実数xの乗法である)

このときvに対してφを定めるこの写像をfで表すと、fは線形である。

 ∧0 Vの基底は {a} (a ∈ R, a≠0)である。今からv = 1 ∈ R に対して式(5)で定まるφ ∈ R を求める。
(5)の左辺は、x = aのとき


一方(5)の右辺は


よって、


となり


すなわち f = id(idは恒等写像)。
0 Vと∧0 V*は恒等写像によって対応している。


次回は、∧n Vや∧n V*の要素で特に重要なものについて述べる。これは微分形式の体積形式とも深いかかわりがある要素である。